重度の吃音が原因でいじめられた僕の体験記【第1話】試練の幕開け

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これは僕の体験談ですが、わかりやすく表現するためにストーリー形式としました。

おおやけになるものなので、過激すぎる内容は避けました。実際に受けたいじめは・・・すいません、察してください。

主人公(僕)の仮名は「隼人(はやと)」としました。

この記事は全4話の体験記の「1話目」です。

第1話 試練の幕開け

僕は普通じゃない・・・

隼人には幼い頃の記憶はほとんどない。

小学校に上がる前は近くの保育園に通っていて、両親や祖母から聞くにはごく普通のやんちゃ小僧だったようだ。

小学校の入学式後に母親と一緒に写っている記念写真を見ても、特に変わったところはない。無邪気で何も恐れず、ただ楽しさを追い求める日々を送っていた。

しかし、その楽しい日々に突然の変化が訪れる。

ある日、授業中に隼人が先生に答えを言おうとした時、言葉が詰まった。何度も口を開けたり閉じたりしたが、頭の中で思い浮かべた言葉が口から出てこなかった。

周りの友達が不思議そうに隼人を見つめ、先生も心配そうに声をかけた。

「大丈夫?次の人に回してもいいよ」

しかし、隼人はその呼びかけにも答えることができず、ただ黙り込んでしまった。

その日以来、隼人の生活は一変した。

最初は些細ささいなことだったが、次第に言葉がスムーズに出てこないことが増え、特に緊張する場面ではさらにひどくなった。話そうとしても言葉が詰まり、舌がからまるような感覚が続く。

先生も親も心配し始めたが、隼人自身が一番不安だった。これまで当たり前にできていたことが、突然できなくなるというのは、7歳の隼人にとっては理解しがたいことだった。

最初は、クラスメイトも、

「ハヤトくん、どうしたの?」

と心配そうにたずねてくれていたのだが、徐々にその態度が変わっていった。

隼人が話すたびに、みんなが無言で見守るようになり、その沈黙が隼人をさらに緊張させた。次第に、隼人が話すことに対して茶化ちゃかす子や、笑う子も現れた。

ある日、休み時間に友達とサッカーをして遊んでいた時、隼人は簡単なことを言おうとしたが、またしても言葉が出てこなかった。

「ボ、ボ、ボ、ボールを・・・」

と何度も繰り返す彼の姿を見て、一人の男の子が声を上げた。

「また、ハヤトくんが変なしゃべり方してる」

その瞬間、周りの子どもたちが一斉に笑い出すと、隼人の胸に強い痛みが走った。

その日以来、隼人は学校での発言を極力避けるようになった。

教室で手を挙げて発表することはもちろんしなくなり、友達との会話でも、できるだけ相槌あいづちを打つだけにした。

しかし、それでものがれられない場面があった。

授業での音読や、自己紹介など、どうしても話さなければならない状況だ。

そんな時、隼人の心は話すことに対する恐怖と緊張でいっぱいになり、言葉がさらに出なくなる悪循環におちいった。

親は心配して隼人をいろいろな病院に連れて行った。

医師からは「吃音症きつおんしょう」という診断を受けたが、その言葉が隼人にとって何を意味するのかは理解できなかった。ただ、「自分は普通じゃないんだ」という感覚だけが心に残り、それが心に重くのしかかった。

隼人が通っていたのは田舎の小さな学校だったため、隼人が吃音症きつおんしょうだという事実は瞬く間に広がり、ほとんど全員に知れ渡った。

それ以降、周りの雰囲気がさらに変わっていった。

先生たちは授業中も休み時間も何かにつけて隼人のことを気にかけるようになり、他の子たちに接するのとはどこか違う特別な視線を感じるようになった。

一部の子どもたちは、隼人が話すたびに悪意を交えながら真似したり、わざと声を詰まらせて話すことでからかうようになった。

なぜ僕だけが・・・

何かのイベントがあるたびに隼人がいじめの標的になることが多くなっていった。

田舎の学校あるある。それは、全校児童数が少ないからこそ、学校や地域のイベントで何かしらの役が回ってきやすく、時には主役までも回ってきてしまうということだ。

大人にとっては取り留めもないことかもしれないが、子どもが初めて経験するイベントはどれも一大イベントだった。

例えば、市の警察署が実施する交通安全運動の一環として、警察官に引率いんそつされた小学生が歩道でキャンペーンを呼びかけるのも子どもにとってはビッグイベントだった。

面白味がないようなイベントであっても、そのキャンペーンに興味を持って、車を止めて話を聞きに来たり、単に景品のティッシュ1箱をもらうために来たりする人は少なからずいた。

「小さいのに偉いねぇ。これはどんなキャンペーンなの?」

など、世間話のような問いかけに対して、役回りの人が返答しなければならない。

知らない大人にいきなりたずねられてアドリブで上手に返答できる子どもはあまりいないと思うが、学校から台本のようなものが渡されて読み上げるだけなので、ほとんどの子たちは問題なくその役回りをこなせた。

「ハヤトくん、できる?」
「お前は話せないじゃん」

待ってましたと言わんばかりに、嘲笑ちょうしょうしながら隼人を攻撃してくる群れがいてくる。

「せ・・・先生に聞いてくるよ。」

隼人が答えると、勝ち誇った顔でその群れのおさが言い放つ。

「そうした方がいいぞ。」

子どもが生きている世界はとても狭く、小さい田舎で起こった出来事がこの世の全てだと思ってしまうものだ。

周りの子たちには簡単に出来て、自分には出来ないことが多すぎること、それは、隼人にこの世の終わりのような絶望感をもたらすことだった。

テストで100点を取ることではなく、テストの解答用紙に自分の名前を書くレベルくらい当たり前のこと、それが自分にだけできないという絶望に打ちのめされながら、ただひたすら我慢する日が続いた。

「なぜ僕だけがこんな目にあうの?」

そんな疑問が頭をよぎる度に、自分の無力さを痛感した。

ある日、休み時間にクラスの人気者である男の子が、彼の前に立ちはだかり、からかうような笑みを浮かべながら言った。

「ハヤト、みんなの前で、昨日のテレビのこと話してくれよ」

隼人は無理に話そうとしたが、予想通り言葉が出てこなかった。その瞬間、周りの子どもたちが一斉に笑い出し、その笑い声が教室中に響いた。

「ぼ、ぼ、僕は、お、お、おにぎりが、す、す、好きなんだなあ」

その男の子が悪意を込めてものまねすると、教室の笑い声がさらに大きくなった。

隼人にはそれが昨日のテレビ番組の登場人物「山下清やましたきよし」のものまねだということがすぐにわかった。この番組が放送されるたびに、いつも笑い者扱いされるようになった。

「家族には心配はかけられない」

という思いから、学校での出来事は親に話すこともできず、ただ一人でその辛さに耐えていたのだが、その辛さよりも、思ったことが言えない悔しさの感情の方が大きくなり、ある決意を固めた。

「絶対にこの吃音症きつおんしょうを克服してやる」

隼人は強い決意を持って、市の図書館で吃音症きつおんしょうを改善する方法を探し始めた。

そこで出会ったのが「腹式呼吸」と「発声練習」だった。

翌日から、隼人は腹式呼吸の訓練を始めた。年齢にするとわずか9歳の子どもの一大決心だった。

最初はうまくいかず、深い呼吸ができなかったり、声が震えたりすることが多かったが、隼人はあきらめなかった。少しでも良い方向に向かっているということを実感したかったからだ。

同時に発声練習も始めた。

鏡の前で、ただ闇雲に言葉を発音し、少しでも上手く話せるようになるために努力を重ねた。

吃音症きつおんしょうを克服するための決意を胸に、「学校ではいじめに耐え抜くこと」を、「家では吃音きつおんを改善するための訓練」を続けた。

続きの【第2話】はこちら ▼


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