重度の吃音が原因でいじめられた僕の体験記【第2話】小さな世界

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これは僕の体験談ですが、わかりやすく表現するためにストーリー形式としました。

おおやけになるものなので、過激すぎる内容は避けました。実際に受けたいじめは・・・すいません、察してください。

主人公(僕)の仮名は「隼人(はやと)」としました。

この記事は全4話の体験記の「2話目」です。

第2話 小さな世界

僕は何もしていない。みんな、なぜ笑うの?

隼人が小学4年生になった頃は、吃音きつおんを改善する訓練を始めて間もなかったため、その症状はあいかわらず目立っていた。

何とか言葉をつむごうとするが、言葉が出てこない。その度に、後ろの席からクスクスと笑い声が聞こえてくる。

ある日、授業中に行われたグループ活動において、グループリーダーを決めることになった。

誰もリーダーに選ばれたくないので、どのグループもだんまりを決め込んでいると、ごうを煮やした担任の先生は、

「みんな、やりたくないんですね。それなら、もう公平にジャンケンで決めちゃいましょう。各グループのジャンケンで負けた人がリーダーね」

という指示があった。

ジャンケンに負けてしまった隼人は、その瞬間、胸が締め付けられるような不安を感じた。

リーダーとして意見をまとめたり、発表したりする役割を担うことは、想像するだけで息が詰まりそうなことだった。

その日の放課後、クラスメイトの一人が隼人に近づいてきた。

「お前、リーダーなんかやっても、どうせ何もできないだろう?」

その言葉に、周りの子どもたちが同調して冷たい視線を投げかけた。

翌日から、グループ活動が始まったが、誰も隼人の言葉を聞こうとはしなかった。

隼人が何かを言おうとする度に、

「言いたいことがあるなら、ちゃんと話せよ!」

嘲笑ちょうしょうする声が飛び交った。特にひどかったのは、クラスメイトの一人が大きな声で、

「お前、もうリーダーやめろよ。迷惑なんだって。なあ、みんな、そう思うだろ?」

と笑いながら言い放った時だった。教室中にどっと笑いが起こった。

その言葉を聞いた瞬間、隼人の心は砕けそうになり泣きたい気持ちになったが必死にこらえた。

僕が普通だったら、どんな夢を見たんだろう・・・

そんな日々の中で、隼人は次第に自分の未来に対して希望を持てなくなっていった。

クラスメイトたちは、休み時間に将来の夢を語り合い、

「僕は医者になりたい」
「俺はサッカー選手になって活躍するぜ」
「私はケーキ屋さん。お花屋さんもいいな」

と声高に話す。

「ハヤト、お前は何になりたいの?」

周りの子たちから嘲笑ちょうしょうされながら質問されると、隼人は決まって、

「ぼ、ぼ、ぼ・・・僕は総理大臣!」

など、叶えられそうもない適当な職業を答えていた。

「そんなのなれるわけないじゃん」

難しいということは百も承知だった。

ただ、現実的な職業を答えると大笑いされることはわかっていたので、自分が就ける可能性が限りなく低い職業を隼人は常に答えていた。

何でも良いのなら、子どもの頃に描くアイドルやスポーツ選手のような華やかな夢を言えばいいのかもしれなかったのだが、いつもつきまとって邪魔をする吃音症きつおんしょうのせいで、夢を見る余裕は隼人にはなかった。

夢を持つことが当たり前の子どもたちの中で、自分だけが違う存在であることが苦しくて悔して仕方なかった。叶いやすい叶いにくいとかは考えないで、自分がやってみたいと思える夢について一度は語りたいと隼人は思っていた。

「僕が普通だったら、どんな夢を見たんだろう・・・」

隼人は、その問いを心の中でいつも繰り返していた。

自分で決めたことだ。絶対に耐えてみせる・・・

中学生になっても、いじめは終わらなかった。

隼人が何かを話そうとすると、周りの子どもたちはわざと彼の言葉を遮ったり、馬鹿にする言葉を投げかけたりした。

「きよっさぁん、大丈夫かい?」

クラスメイトの一人が、例の「山下清のドラマの登場人物」のものまねで隼人をからかう。

「ぼ、ぼ、ぼ、僕は、ハ、ハ、ハ、隼人だ。き、き、き、清じゃ、な、な、な、ない」

そんな環境の中で、彼の自己評価はどんどん低くなり、次第に人前で話すことが恐くなっていった。

中学3年生の頃、学校の風紀委員ふうきいいんという役が回ってきた。

全校生徒数が少ないからこそ、その役が当たってしまう可能性が高く、また、ほとんどの生徒がやりたくない役だったため、最終的にはジャンケンで負けた生徒が押し付けられる。

隼人が通っていた中学校では「大きな声で挨拶をしよう」というスローガンがあり、風紀委員ふうきいいんのメンバーが順番で他の生徒よりも早く登校して、正門前に立って挨拶するという校則があった。いわゆる挨拶運動だ。

「おはようございます。おはようございます」

そうやって挨拶するだけだったのだが、この役が自分が決めた「腹式呼吸と発声練習の訓練」の効果を知る場となった。

「声、おっきいな。ハキハキしたいい声だ」

ほとんどの先生がそう口に出した。先生らは吃音きつおんに悩む隼人を気遣って言ったわけではなく本心のようだった。

隼人自身も全く意識していなかったのだが、周りからすると相当声が大きかったらしい。

9歳の頃に「吃音きつおんが治るまで訓練を続ける」と決意して6年が経とうとしていたが、普通に声を出す時は腹式呼吸しながら発声するようになっていた。

訓練し始めた頃は体力の消耗が激しく、今でもしんどいことに変わりはないのだが、それでも風邪で寝込んだ時以外は1日も欠かさずに続けている。

「そのせいで」と言うのはおかしいが、腹式呼吸での発声のせいで、以前に比べて声が大きくなっていた。

風紀委員ふうきいいんなんて面倒だな」と思っていたが、その役割が隼人に訓練の効果を実感させるきっかけになった。

だが一方で、依然としていじめに耐えなければならない日々も続いていた。挨拶運動の後、教室に戻るといつもの日常が待っている。

症状の辛さ、苦しさを知らないクラスメイトから心ない言葉を浴びせられると決まって、

「耐えるんだ。自分が決めたことなんだから。」

と心の中で繰り返す毎日だった。

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